トップ棋士たちが語る「才能と努力」まとめ【王将リーグ特集】

         

2019年の王将戦挑戦者決定リーグ。

藤井聡太七段が最年少タイトル挑戦者にあと一歩までに迫ったのは
記憶に新しいところです。

さて、この挑戦者決定戦リーグの幕開けに際して
渡辺明王将とリーグ参加者7人の計8人に対して
「才能と努力」というテーマでインタビューが行われました。

将棋上達を目指すアマチュアにとっても
非常に興味深い内容だったので、
各棋士の考えを「才能と努力」に関する点に絞ってまとめてみます。

特集記事はこちら(外部リンク)から閲覧できます。

 

才能の定義とは

才能の話をするには、まず将棋の才能とは何かを定義しないことには始まりません。

将棋に限らず才能とは何かというのは難しい話題ですが、
トップ棋士たちの回答を要約すると、下のようなものでした。

 

・その競技に対する限界値で、
才能の差は小学生時の棋力差に現れる。(渡辺王将)

・後天的に身につく、無意識な直感。(糸谷八段)

・将棋が完成する前(~20代)の強さ。(広瀬竜王)

・中学生棋士、史上最年少記録など、その人にしか出せない成果を出せること。(久保九段)

・先天的なもの。時代の先を行く人。(羽生九段)

・頭の中が見えない将棋では定義は難しい。
物事に動じずに何があっても自分の力を出せるのは、本当の才能の一つ。(三浦九段)

・基本的には努力することによって磨かれてくるもの。(藤井七段)

 

才能という言葉には先天的なイメージがありますが、
糸谷八段と藤井七段は後天的なものと捉えています。

他の人には気づかない発想、
つまり特異な大局観を才能と捉えているようです。

羽生九段も才能を他の人とは違う感覚と話していますが、
先天的なもの、ギフトと表現されています。

 

一方、渡辺王将や広瀬竜王、久保九段は
才能の差を若いころの強さの差に求めています。

 

私が好きなのは渡辺王将の定義で、
才能は限界値だというもの。

いくら頑張ってもプロに並ぶ棋力を手に入れることは
できないかもしれないけれど、
通常目指されるアマ有段、高段なら
誰でも達成できるのではと思います。

 

才能型の棋士

各棋士が才能型の棋士として挙げる棋士の上位をまとめてみました。

自分にないようなものを持つ棋士が選ばれています。

第1位 羽生善治九段 4票

タイトル獲得99期の実績を持つ羽生九段が4票を獲得し一位となりました。

中学生棋士、最多獲得タイトルから説明不要ですが、
ハードスケジュールの中多少手を抜いて指しても勝ってしまうなどの
要因も挙げられました。

昔、オールスター勝ち抜き戦(負けるまでずっと対局が続く)という棋戦があったんですけど、羽生さんは2000年に16連勝の記録を作っているんですよね。
多少は手を抜いていたはずなんです。手を抜いていたというか、多少は抜かざるを得ないですよね、他の棋戦もありますし、防衛戦も並行していましたし。(中略)そんな中でも勝ち続けるって、異常なことですよね。
(三浦九段)

将棋を並べていると、他の人には気がつかない発想の手が多いです。才能という言葉だけで表して良いのかわからないんですけど…。
(藤井七段)

また、羽生九段自身は自分のことを、
才能も努力も両方ないと棋士になれないと前置きした上で
努力型と分類しています。

いきなり最初からできたというわけでもなかったようで、
将棋を覚えてから1,2カ月は全く勝てず、
基本からコツコツ勉強していったということです。

天才と名高い羽生九段でも、
努力なしに勝てるようにならないという点はアマチュアと同じ。

少し勇気づけられる事実です。

第1位 藤井聡太七段 4票

羽生九段と同率一位になったのが、
新時代の天才と名高い藤井七段です。

渡辺王将は藤井七段のことを
大山、中原、羽生に続くスターになるのではと予想されています。

若さに対しての確かな実力や落ち着きが各棋士に評価されました。

やっぱりあの年齢であれだけの内容の将棋が指せるというところですよね。すごく変わった手を指すというわけではないんですけど、状況に合わせて最適化する能力がすごく高いと思います。羽生(善治九段)先生もそういうタイプだと思いますが、いろんな環境に適応していく能力がすごく高いんだろうと思います。
(豊島名人)

また、藤井七段は自身のことを
才能型でも努力型でもなく「環境型」としています。

自分は将棋の上達を左右する要因というのは「才能」「努力」に加えて「環境」の3つかなと思っています。その中でもとくに自分は将棋を始めたころから、周りの方に応援していただいたりして、その部分が非常に恵まれていたのが大きかったのかなと思っています。周りのサポートがまったくない状況だったら、努力することも難しいと思います。

才能と努力のほかに環境が大切なのは納得できるところです。

藤井七段の環境の良さは周りの応援だけでなく、
永瀬叡王のようなトップ棋士と研究会ができるという点も含まれます。

努力することは当然として、
出来るだけ良い環境を用意することは
将棋上達への第一歩ですね。

第3位 山崎隆之八段 3票

王将リーグに入っている棋士を挙げる人が多い中、
山崎八段がランクインしました。

独創的な指し回しをまとめることで知られ、
自分にできないことをやってのける点に
才能を感じるという意見が見られました。

山崎さんは形を自分で「創る」ことができるというのがいちばんのポイントですよね。一手損など特殊な戦法にかえる新手筋だけではなく、横歩取りの山崎流など、メインストリームにある戦法における新手でも何でも創る。
「戦法の創造」はやっぱり限られた人にしかできない。山崎さんは、その戦法の創造ができる数少ないひとりなんです。
(糸谷八段)

山崎さんは「おそらくこういう感じのことをしてくるんだろうな。でも本当にそうしてくるのかな?普通はやらないだろうな?」と思っていると、本当にそれを指してくるんですよ。(中略)
それをしっかりとまとめ上げて結果を出しているのが、すごいですよね。山崎さんはそういう部分が群を抜いているんです。
(広瀬竜王)

なんでその発想になるのかなという(笑)。全然わからないんですよね。
山崎さんとは公式戦で対局しただけではなく、奨励会のころからずっと指してもらっていたのですが、練習でもスゴい手が出てきていました。そのときは「それが正しいのかな?」と思っていたんですけど、後々考えるとやっぱり相当変わった感覚だったんだろうなと思ったりしていました(笑)。
(豊島名人)

 

努力について

努力について、とぼんやりとした見出しをつけましたが
各棋士様々な話題が挙がりました。

昔と違い棋士より強いソフトが出現し、
勉強方法も変わってきているようです。

(努力とは?という問いに対し)
うーん。何でしょうね。人によって最適な努力の量というのが違うと思うんです。僕が永瀬さんと同じくらい勉強をしたとしても、おそらく上手くいかないです。量=努力というところもあると思いますけど、自分に合った努力というのがあるので、そこを意識してやっています。でも何なんでしょうね、努力って。
(豊島名人)

今回挙げた努力型のほうがソフトを使った勉強に適正があると思います。ソフトの成長によって努力型の研究のウエイトが上がってきて、自分の指したい手を通すよりもソフトで研究してその手に合わせた手を指せるほうが、勝率が高くなりました。

才能型が新しい形を創ったとします。でも自分の形を切り拓いて勝てるのって1局なんですよ。初見だけ。次のときにはその形は研究され尽くしてしまうから、労力と全然見合わないんです。だったら最新形をソフトにガリガリかけて研究したほうがずっと楽なんです。自分の頭で考えて作るより。

そういった意味では、才能型には受難の時代だと思います。ただ、開拓する人間がいないと、「将棋の面白さ」というのが減るんですよ。だから、「最近はずっと角換わりばっかり」とファンから言われるんだと思います。
(糸谷八段)

 

努力型の棋士

第1位 永瀬叡王 5票

努力の代名詞にもなっている永瀬叡王が1位となりました。

シンプルに圧倒的な勉強量に舌を巻いているといった感じが
インタビューから伝わってきました。

永瀬叡王の努力に関する名言として、
「絶対にプロ棋士になれる方法」という文章が有名です。

自分の実体験に基づいた勉強法ですが、まず小学生の頃には、平日は学校があるので5時間ほど、休日は7~8時間将棋に携わります。自分の場合は将棋道場に通うのがメインでした。

中学生になると体力も付いてくるので毎日7~8時間。道場に通う時間は変わらず、増えた分はネット将棋で対局していました。対局数は中学時代で一日10局以上、30局未満で指していました。また詰将棋は解かず、棋譜並べは一日2~3局。当時は今のようなネット環境もなくアナログ的に盤に並べていました。

三段リーグを戦った高校時代には毎日10時間前後の勉強。基本的な勉強内容は変わっていません。詰将棋はやらず、棋譜並べは2~3局。メインは実戦で、やはり10局以上、30局未満。ただし、持ち時間は、日々の勉強時間が増えた分だけ多くなったと思います。

以上が自信を持って紹介できる勉強法です。これをやれば絶対プロ棋士になれます。

(出典:全戦型対応版 永瀬流負けない将棋)

永瀬叡王は詰将棋が苦手だったのか、
好きだった実戦を徹底的に行いました。

小学生時代にどんどん強い人の大局観を吸収していったと考えられます。

 

第2位 豊島将之名人 3票

第2位には豊島名人が入りました。

豊島名人は角換わりなどで深い研究を用意し
序盤をノータイムで飛ばす姿が印象的です。

他人との対局を行わず、一人でソフトを用いた
勉強をしているといいます。

豊島さんは、けっこうオーソドックスな将棋で、すぐに粘りに変えたり、勝つために力を尽くしているタイプなんですよね。そういった部分で「努力型」に分類されるかなと思います。
(糸谷八段)

(永瀬叡王・豊島名人を挙げて)
たとえば羽生さんは普通に努力型でもあると思うので、とくに努力型に特化しているであろうふたりを挙げました。このふたりは対極ですよね。豊島さんは対ソフト、永瀬さんは対人間。現代の二極化した努力型だと思います。
(広瀬竜王)

豊島さんの棋譜を見ているとわかるんですよね、相当深いところまで研究しているなというのが。あとはひとりでやっているというところもですよね。ひとりでやっているというのは大変で、人を相手に指さない、練習しないというのは、よほど強い心を持っていないと難しいはずなので。研究会をやらずに名人を獲ったわけですから、孤独になっても、努力できるのは強い心を持っているということです。
(三浦九段)

豊島名人自身も自分を努力型と分類していて、
一人で勉強することを苦にしていないといいます。

難しいこと(長手数の詰将棋など)をやりすぎず、
楽しい勉強をやりながらたまにキツい勉強もするというメリハリが
努力のコツのようです。

 

第2位 菅井七段 3票

同率の第2位に、リーグ外から菅井七段が挙がりました。

菅井七段といえば振り飛車で様々な研究手を開発していますが、
実戦を指す量も相当なもののようです。

菅井さんは昔から良く知っていますし、相当努力されている…。でもご本人は努力しているという感じでもないんじゃないですかね。すごく将棋が好きで、相当な量をやっているんだろうなというのは、簡単に想像がつきます。
(豊島名人)

菅井さんいわく、努力さえすれば三段までは誰でも行けると言っていました。名言だなと。彼が言うならそうだなと思いました。あの人より努力している人は見たことがない。やっているのは見えているし、一緒に将棋を指していても研究しているのがわかるので。(久保九段)

ここでいう三段は、奨励会三段のことでしょう。

久保九段からは、菅井七段は将棋倶楽部24で指しまくっていたという話も出ました。

ある程度の実力まで達すれば、
ひたすら指しまくるのも上達の戦略になるのですね。

 

まとめ

トップ棋士たちの才能と努力に対する考えを見ていきました。

才能と努力というと全く違うものに思えますが、
棋士たちの意見を見ても、区別することは難しいのが実情と思います。

 

羽生九段の言葉に、次のようなものがあります。

『才能とは続けられること』

また、永瀬叡王の言葉に次のようなものがあります。

『努力とは、息をすること』

 

思いつかない手を思いつくのが才能という考えもありましたが、
大局観だって様々な経験の末に作り上げられたものです。

結局、明確な才能の差が見えるわけでもなくて、
それだけで大きな差が生まれることもなく、
息をするように努力する人が勝つということなのですね。

 

コツコツ、頑張っていきましょう。

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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